丁寧な対応

先日、市役所への申請書類を投函するため、郵便局に立ち寄る機会があった。

役所の書類など、普通は料金別納で済みそうなものだ。しかし残念ながら、今回は自分で切手を貼らなければならないタイプの封筒で、しかも運悪く切手を切らしていた。いかんせん、書類の目的は児童手当の継続申請である。給付をありがたく受けるためには、多少の手間を惜しんではならないのだ。

その日は小雨が降っていた。仕事帰りの郵便局は少し混雑しており、表側の駐車場が一杯だったので、配送車両も出入りしている裏手側に車を停めて、小走りで建物に駆け込んだ。

窓口担当の局員は、痩身で初老の男性だった。コロナウィルス対策でビニールカーテン越しだったが、柔和な印象の持ち主であることは何となくわかった。

普通郵便を投函したい旨を伝え、84円を支払うと、その局員がこう言った。

「記念切手をお貼りしてもよろしいですか」

私は、なぜそのようなことを訊くのか分からなかった。少しうろたえながら「ええ、いいですよ」と短く返すと、その局員は手元から少し大きめの切手を取り出して、私が差し出した封筒の端に丁寧に貼り付けた。

貼ってもいいか、わざわざ訊くくらいだ。さぞかし立派な切手なのだろう。そう思ってカウンター越しに覗き込んでみたが、ビニールカーテンを隔てているせいでデザインが良く見えない。

すると、目を凝らしている私の仕草に気づいた局員が、レジを叩く手を止め、その封筒を私の見える向きにわざわざ直して、ビニールカーテンの下からスッと差し出してくれた。

実に丁寧な対応をする人だ。

切手は天皇陛下の即位を記念したもので、左右対称の見事な装飾があしらわれていた。しかし私はそんなことよりも、その局員の素晴らしい対応にすっかり感心していた。私が理解しかねた最初の質問は、局員が丁寧さを心掛けてわざわざ訊いてくれたものだったのだ。

郵便局の窓口といえば、昔は殿様商売の雰囲気を露骨に匂わせていたものだ。次の客を呼ぶ声はいつもかったるそうにしていて、こちらがちょっと変なことを言おうものなら、上から目線で冷たくあしらわれることもしばしばあった。

最近はそういう光景を目にすることが少なくなったような気がする。そういえば、最近ゆうパックを出すことが何度かあったが、対応してくれた方は総じて皆、とても丁寧だった。郵便局員はいつからこんなにきちんとした対応をするようになったのだろうか。

きっと、民営化や事業環境の悪化も影響しているのだろう。特に今は、会社本体の不祥事を叩く世の中の論調もある。末端の窓口業務には細心の注意を払うように言われているのかもしれない。

しかしその局員の丁寧な対応は、そういう組織的な事情だけではなく、純粋な人柄の良さからくるもののように感じられた。他の局員の対応も素晴らしいが、それとは一線を画す特別な雰囲気があった。

せっかく見やすいように差し出してくれたのに、何も言わないのは失礼だと思い、私はその切手が大きく立派だと感想を述べた。そして二言三言の会話を交わした後、よろしくお願いします、と残して郵便局を出た。

たった2つ、3つのやり取りで、誰かを感動させることができる人も世の中にはいるものだ。

料金別納の封筒でなくて良かったな、と人目に付かぬようひそかに笑い、私は裏手の駐車場まで駆け足で戻っていった。

先ほどよりも幾分、天気が回復しているような気がした。

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