自己啓発本に惑わされないために

数年前まで、私は自己啓発本を乱読する生活を送っていた。

当時といえば、開発業務から品質管理に職務が変わって数年が経った頃だ。品質マンとしての経験はそれなりに重ねてきてはいたが、品質管理における、いわゆる王道スキルを活用するような職場でもなく、自分の立ち位置が何となく中途半端なものに感じられていた。社会人としてこの先も通用し続けられるかどうか分からず、かと言っていきなり転職するような勇気もない。何もできない自分に対して、ただ苛立ちだけが積もっていく。半ば救いを求めるようにしてすがったのが自己啓発本だったのである。

自己啓発本とは不思議なものだ。読んだ瞬間から、まるで自分が成長したかのような錯覚を覚える。書いてあることを実践しないと決して血肉にはならないのに、読んで満足してしまう危うさもはらんでいる。実のところ、1度読んだきりという人は多いのではないだろうか。そうでなければ、毎年毎年、ビジネス書籍のランキングが自己啓発本で埋め尽くされる理由が説明できない。皆、同じところを堂々巡りして、似たような本を蒐集しているだけではないのか。かつての私のように。

今の私なら、言い切ることができる。世の中を上手く渡り歩いていくために本当に必要なことは、自己啓発本に書いてあるような小手先のお手軽テクニックなんかではないと。

朝型に切り替えて自分磨きに勤しんでみたり、価値のない飲み会を片っ端から切り捨ててみるのも悪いことではない。しかし、組織で大きな仕事を成し得るために絶対に必要なスキルかと言われると、それはちょっと微妙である。

そんなことよりも、例えば自分自身や所属する組織についての「あるべき姿」が容易にイメージできたり、そこに向かってどうアプローチしていくかを表現できたりすることの方が、もっと大切だ。例えば、問題に直面した際には対処療法に終始せず、問題の元を断つためにどう動くかを常に考え続けられることの方が、断然求められるべき重要な能力である。そんなことを詳細に書き記した自己啓発本など、少なくとも私はこれまで一度として見たことがない。

ところで、ホリエモンの著作を読んだことがあるだろうか。彼は年に何冊も自己啓発本を出版している。ものすごいスキルだし、バイタリティーの高さは賞賛すべきものだ。しかし私は、彼の著作は1冊読めば充分だと思っている。彼の考え方はとてもシンプルで、しかもまっすぐだ。とにかく主張が一貫しているので、何でもいいから1冊読めば、彼の考え方は大体理解できる。書籍ごとに論点は異なるのだろうが、それはごく表面的なことでしかない。

なすべきは考え方を学び取ることであって、字面を追い、猿真似をすることではない。ホリエモンの出版物は必ずと言っていいほど、ビジネス書籍の売上げ上位にランクインしているが、何冊も購入している人は、それこそ彼の思う壺にはまっているということに早く気付くべきだと思う。

ただ一方で、今の若い人、例えば卒業して間もない新社会人や、そろそろ後輩が入ってくるくらいの人には、別の目的で自己啓発本をたくさん手にしてほしいとも思うのである。なぜなら乱読を続けていると、それらがどれも同じことばかり書いてあって、薄っぺらなことしか主張していないという事実に、段々と気づいてくるからだ。そしてついには、そういう読書があまり効率的ではないことを悟る。でも、それでいい。それに気付けたということは、即ち成長したということだからだ。大切なのは、本に書かれていることを盲信しないこと、そして、今、目の前にある仕事にもきちんと向き合うことだ。

何かを学ぶために本を読むのであれば、書いてあることの一字一句を追いかけるのではなく、そこに至る著者の考え方やコンセプトを透かし見抜くことが肝要だ。そして、そういうことを目的とする読書ならば、別に自己啓発本でなくてもいい。もっと良い本、読むべき名著が世の中にはたくさんあるはずだと、今の私ならそう考えることができる。

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